昭和の写真館

  • 投稿日:
  • by

それは、蒸し暑い日曜の午後のことでした。

白髪に黒いベレー帽をおしゃれに被った男性と
白髪を短くカットし、黒のタンクトップとパンツに白いジャケットを
とても素敵に着こなしたご婦人が、
「や~れやれ、やっと辿り着いたわい~(笑い)」と言いながら
疲れきったようなお顔で入って来られました。

???の私に、笑顔で「いや~探しました~!!」と汗を拭いながら
小柄な奥様を手招きし、ヨッコラショとカウンターに腰掛け、お話下さいました。

「遠くから来たんですよ~東の端から・・・」とは鳥取でした☆
昨日こちらに来られ、大山のペンションへお泊りだったそうです。

いつも、テレビや新聞、雑誌の情報を聞き逃さないようにしておられ、
その中から興味あるところをお尋ねになるのだと仰り、
昨夜のペンションもそんな情報から出かけてみようとお思いになったとか☆
そして、勿論「珈琲屋吹野」もそんな情報の中からチョイスして下さったようでした。

まず、高島屋の駐車場に車を停めて歩きなさい、と教わったので、
車は停めたものの、高島屋を出て右なのか左なのか、西なのか東なのか、
そこからの情報が全く無く、所番地も電話番号も分らない。
高島屋の方に訊いた方へ歩いてみても見つからず、
道行く人に尋ねても要領を得ない・・・
ぐるぐると、暑い中あちこち歩き回られたのだそうです。

大変申し訳ないこと、と恐縮しながらも、それでも諦めず探して下さったことが、
とても嬉しかったです。
途中で諦めてしまわれても仕方ないところです!!
おそらく尋ねられた方々も、お二人が鳥取の方で、米子の土地感が無いとは気付かず、
あまり丁寧ではない案内をされたのではないかと思われ、
自分自身も、これから道を尋ねられた時には気をつけなければと反省しました。

お話に夢中だったお二人、やっと注文がまだ!だったことに気付き、
カフェオレとウィンナ珈琲のオーダーを戴いたので、珈琲に有りっ丈の心を込めました☆!

それから、またお話は続きました。

ご主人は、50年続けて来た写真館を昨年息子さんに譲り、
こうして奥様と、テレビや新聞の情報で、その日の朝唐突に「行こう!!」と思い立ち
観光名所や美術館、美味しいお店へお出かけになる「気ままな二人旅♪」
が始まったのだそうです。

なんだか羨ましい話でした。
何にも計画は立てず、ただ気の向くまま車を走らせ、
辿り着いた処で空いている宿を探し、時間の制約の無い旅を愉しむ・・・なんて
夢みたいな、理想的な人生の過ごし方ではないでしょうか?!☆♪

ただ寂しかったのは、写真館を引退された理由でした。
「デジカメの普及」でした・・・

「フィルムで撮る写真の面白さ」や「ワクワクする現像作業」
を知っていらっしゃる世代の方の寂しさ。
撮ってから現像するまでの、その間の愉しみがデジタルの世界ではありません。
もう、自分の時代は終わった・・・
そんな寂しさから、引退を決意されたのだそうです。
何だかそのお気持ちが解かる気がしました。

誰もが簡単に名カメラマンになれる時代・・・
それはそれでいいのかもしれません。が、何でもかんでも「簡単」「便利」に
なることがすべて良いとは云えないと・・・
そんな時代に、寂しさを感じる人たちがいることを私たちは忘れています。

今、こうして旅に出られる時、勿論マイカメラ持参!!かと思いました。
が、引退後一度もカメラを手にした事は無い・・・と・・・
「昔はカメラを持つと、あれも撮りたい、これも撮りたい・・・と
周りの全てが被写体になり、必死になってシヤッターを切りました。
でも今はもう、写したいと思うものがなくなりました。
写したいという意欲が湧く被写体がありません・・・」と寂しそうに仰いました。

きっと、五十年ですべて撮り尽くされたのでしょう・・・
けれど、また何か、ひとつでも興味をそそられる被写体に出会われたら、
引き出しの奥に仕舞ったカメラを取り出して下さい。
ファインダーの中の風景にシャッターを切って下さい。
そんな被写体に、いつか亦出会われる日が来る事を祈っています。

写真館には五十年の間、沢山の方々が、大切な記念の写真を撮りにいらしたことでしょう。
もうセピア色になっているかもしれないけれど、その写真はきっと今も、
それぞれの、大切な想い出の一枚になっていることと思います。
長い間ご苦労様でした。
そして、有難うございました。
これからは、奥様とゆったりとした心の旅を愉しんで下さい。

お洒落なリュックを背負った奥様と、ベレー帽を素敵に被ったご主人が
肩を並べてゆっくり歩いて行かれる仲睦まじい後姿に、
私は心のシャッターを切りました☆!